記事一覧

「貸手の優越的地位の濫用」は徹底して排除せよ

住宅ローン推進のほとぼりが冷め始めて、白羽の矢が立った預かり資産推進も同様である。投資信託の販売手数料や信託報酬はどこの金融機関も定額である。外貨預金にしても金利や為替売買手数料の優遇はキャンペーンのような形で組織的に取り組まれるが、顧客との相対交渉で優遇が変わるのは一部富裕層による巨額取引の場合くらいである。こちらもローン同様、お願いだからといって、預金のみの取引先が仕方なく投資するということはない。昨今の地域金融機関が推進してきたものの多くは、お願いで取引してもらえるものでもなく、お願いによる条件交渉の必要もない商品ばかりである。自動販売機でも売れるようなお手軽な商品ばかりだ。その結果、お願いのノウハウやお願いによる成功体験をもたない行職員が増えるということになる。

昔は知っていたが、お願いの仕方を忘れてしまうこともあるかもしれない。個人ローンと預かり資産で実績を上げ、支店長まで上りつめたが、お願いの仕方さえわからないという支店長が生まれてきてもおかしくはない。取引先の資金需要低迷からお願い自体がなかなか通用しなくなっており、お願いの仕方もわからなくなりつつあるいま、何かしら手を打たなければ、会社然とした取引先の肩代わりや実需のない資金を借りてもらうことはむずかしい。中小企業キャッシュフローを満足に改善できるかどうかわからないうえに、ボリュームが中心の業績評価での結果も残せないのであれば、ビジネスモデル変革に二の足を踏む現場も出てくるだろう。

提案営業をも凌駕する何か新しい営業スタイルを考えられないか。この問いに対するわたしの答えは、小洒落た提案営業ではなく「ストレートに売れないものを売るための『お願い営業』の再構築」である。「貸してもらった」という感覚が薄れた取引先に対して、いままでと同じような「お願い営業」では通じない。新たなお願いの基盤をつくっていくのである。ポイントは、最近よく聞かれるようになった「貸手の優越的地位の濫用」を徹底して排除することである。貸手の優越的地位の濫用が問題視されるに至るきっかけは、公正取引委員会が2001年7月に公表した「金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書」である。

金融機関が企業に対し各種の要請を行った場合、企業は今後の融資等への影響を懸念して意思に反しても要請に応じることがあり、優越的地位の濫用として独占禁止法上の問題を生じやすいということを公正取引委員会は指摘している。これを受けて金融庁からも「与信取引に関する顧客への説明態勢及び相談苦情処理機能に関する新しい監督指針」(以下、説明責任ガイドライン)が集中改善期間中の2004年5月に出され、「優越的地位の濫用等不公正取引と誤認されかねない説明を防止する態勢が整備されているか」などの指針が盛り込まれている。

女性 即日キャッシング

地域金融機関と与信取引先の関係

それまでの営業スタイルである「お願い営業」は、とにもかくにも取引先に顔をよく出すことが基本とされた。人柄のよい、客受けする渉外であることが大前提であった。他の金融機関より顧客にかわいがってもらうことで、商品やサービスは売れた。少し売行きが悪くなったり、キャンペーンで無理をしてでも売ったりしなければならないときには、末端の渉外に始まり、支店長までが総出でお願いをし、売れない商品を販売してきた。キャンペーンであまりに高い目標が設定されたり、提案するに及ばないような商品を売ったりするような場合は、いまだにこうした「お願い営業」を行っている地域金融機関の現場も少なくはない。ここで、このお願いは何を根拠にしたものかよく考える必要がある。

渉外担当が顧客のお気に入りだからか。その顧客がその地域金融機関のファンだからか。渉外担当が血縁者のこともあるだろう。過去の苦しい時期に支援をしてもらったことや、その渉外担当のファンになっている顧客もいるだろう。ただし、そうした顧客の数は決して多くはなく、お願いが受け入れられてきた根拠としては普遍性を欠く。お願いする対象先には一定の特徴がある。預金のみの取引先に率先してお願いに行く地域金融機関は皆無ではなかろうか。貸出以外の商品をキャンペーンで売り込む場合、渉外担当の会議などでつくる対象先リストに載るのは、決まって与信取引先である。時には正常先より多くの非正常先がリストアップされることもある。

お願いは与信取引先にするものなのだ。与信取引先が「貸してもらった」と感じている手応えや地域金融機関の「貸してあげた」という感覚は、資金需要がいかに低迷しようとも、地域金融機関の行職員の皮膚感覚として残っている。そこをお願いにうまく使っているのだ。お願いが受け入れられてきた根拠はここにある。しかしながら、与信取引先の「貸してもらった」という感覚が薄れてきていることは間違いない。どこの地域金融機関でも貸してくれるような正常先では、いまや「貸してもらった」感覚は皆無という状態になっているかもしれない。お願いの基盤が揺らぎはじめ、「失われた一〇年」のうちにお願いの通用しない先が着実に増えているのである。

さらに「貸してあげたのにお願いがしづらい(またはできない)」という状況が増えていることも事実である。個人ローンはその代表である。事業性資金融資は基本的にオーダーメイドである。保証協会の保証付きにするか、有担保にするか、無担保にするか、これらは案件により異なる。さらに貸出金利は他の取引金融機関の動向をみながら柔軟に対応している。基本は顧客との交渉であり、取引先との間でお願いが幅をきかせる場面はいくらでもある。ところが、事業性資金の需要が落ち込む過程で、地域金融機関は個人ローンに注力した。

個人ローンは定型の条件の定価販売が主流であり、顧客との条件交渉の余地はない。取引先の代表者向けならまだしも、預金のみの取引であるリテール顧客に対して住宅ローンを実行する際、お願いによって定価の貸出金利より高い金利で契約したという話は聞いたことがない。加えて預金のみの取引先などに、お願いで個人ローンの契約を獲得することなどできないことは皆知っているはずだ。こうした顧客は個人ローンを申し込む場合、必ず大手行から地域金融機関までの貸出条件を比較し、レートショッピングをする。

「失われた一〇年」で本当に失ったもの

業績評価の関係から、世話の対価の回収として、資金利益以上に欲しいものが事業性資金融資のボリュームという地域金融機関も少なくないだろう。しかし、ご覧のとおり、現実問題として資金需要は旺盛ではない。他の金融機関からの肩代わりなどが戦術として考えられるが、限りはある。しかし、これまで説明してきたビジネスモデルでは正常先への適正プライシングまで視野に入っているため、地域金融機関側で実需の伴わない資金供給が認められさえすれば、中小企業キャッシュフローの改善次第では、正常先への適正プライシング同様難易度の高い貸出実行も不可能ではない。もっとも、取引先側では少し問題がある。

適正プライシング推進による利上げは、その取引先の他の取引金融機関に知れることは少ないが、肩代わりを受ける、借入ボリュームが増えるということはシェアが崩れることを意味している。月末に作成する金融機関別借入明細などで他の取引金融機関が崩れたシェアを知ってしまう。ちなみに、こうしたことは家族経営的零細企業レベルではあまり問題にならない。ただし、世話一回当りの回収として十分なボリュームの貸出が実行できるわけではない。年商一億円の会社に実需のない五〇億円の貸出実行はあまりにも不自然だからだ。大きなボリュームが期待できる会社然とした取引先が相手の場合、話は変わる。シェアを奪われた金融機関が騒ぎ出すことで、取引先が不快な思いをすることがある。

わたしの勤務する地域金融機関でも大口取引先のシェアが変わると、支店長からエリア担当役員あたりまでが大騒ぎをして、その大口取引先に押しかけるだろう。そうしたことを知る取引先にとっては、受ける世話の度合いに少々ばらつきがあっても、もめることなく、どの取引金融機関とも付き合えることの安心感は大きい。だから、会社然とした取引先は世話の対価として新たな借入れを受けることでシェアを崩すことを許容したがらない。もっとも、そうした取引先では、「ウチの信用がなくなれば、『ありがとうございました』といって回収するようになるくせに、信用のあるときばかり大騒ぎして役員までが押しかけてくる」と内心冷めた目でみているはずだが。このように、世話の対価の回収手段として貸出を実行することは最も難易度が高い。

しかし、背に腹はかえられない。「なんとかしたい」というのが地域金融機関の本音だろう。世話の対価の回収手段は、往々にして売れない商品・サービスである。正常先の適正プライシングも、またしかりである。高い金利の貸出など売れる商品ではない。売れないというより売りにくいものになってしまっているのは、実は地域金融機関との取引そのものだったという可能性すらある。ATM並みとみなされしまった地域金融機関であれば、先に説明した「世話」などの他のサービスも、その実力は未知数とみなされ、顧客に売り込みにくい。健全とはいえない地域金融機関であれば、さらに売りにくくなる。ただし、現場には売れないものを売ってきた猛者がいる。そのノウハウは大きな資産である。

売れないものを売るために猛者たちは何をどのようにしてきたのだろうか。直近では提案営業といわれる営業スタイルが主流になっている。提案の質を高めて、売れない商品の購入意欲を喚起したり、提案を実現するためには売れない商品の購入が必要になるようにしたりするものである。提案営業はもともと「お願い営業」のアンチテーゼとして生まれてきたものだ。バブル崩壊前後の頃、貸出をするために預金を集めなくてはならない時代が終わり、それまでの営業スタイルに不安が出てきたことを転機として生まれてきた。しかし、それでも売れないものは結局「お願い営業」に大きく依存して売ってきたのではないか。

回収された対価こそが地域貢献の成果物である

さらに地域貢献について世話の対価の回収は大きな意味を有する。地域貢献は「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」において、「地域の利用者が市場規律のもとに評価するものとされ、地域金融機関の財務上の影響についても管理会計などで測定できるものとすべき」との見方が示された。市場規律とは株主による規律づけを意味する。株主は経営資源の浪費を許さないものだ。したがって、地域貢献のメリットを受ける利用者には、経営資源の浪費にならない範囲で、地域金融機関は地域貢献を提供していかなければならない。さらには地域貢献が地域金融機関の財務面に好影響を与えることが望ましい。

取引先の中小企業キャッシュフローを改善させることは、まぎれもなく地域貢献である。地域経済を活性化させることになる。そして地域貢献の度合いが定量的に測定されることになる。その地域貢献の成果物を共有することが、世話の対価の回収で実現する。「当期の地域貢献は一〇億円で、その地域貢献の当行の財務上の影響は三億円でした」というような説明が可能になるのだ。こうした説明が可能な地域貢献は、ほかに見当たらない。地域貢献の多くはそのコストの測定が可能であるが、そのコストが生み出す効果をほとんど正確に把握できないものだ。「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」のなかで「管理会計で地域貢献の効果を把握せよ」といわれているが、いざ始めたらむずかしいはずだ。

利用者に寄りすぎた経営資源浪費型の地域貢献は株主の機嫌を損ね、株主に寄りすぎたしみったれた地域貢献では利用者は満足しない。伝統的な資金仲介業務同様、地域貢献もゼロサムゲームのようにとらえられがちである。ところが、世話をして、世話の対価を回収するというビジネスモデルは、取引先とのWIN・WINの関係を構築するため、地域に対してもWIN・WINの関係構築が可能になり、ゼロサムゲームを回避できる。利用者も株主も満足するのである。「当行の地域貢献は取引先の中小企業キャッシュフローを改善することです」と宣言しさえすれば、管理会計により財務上の影響を測定するまでもなく、世話の対価の回収分を電卓で集計するだけで事足りる。「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」上も高評価を得られることは間違いない。さらにこうした地域貢献の定義は、実体の伴わない地域密着の結果、顧客とのあいだにできた溝の修復に寄与するだろう。

資金需要の少ない時代に「地域貢献は安定的な資金供給です」という地域金融機関は、非正常先の取引先くらいからしか喜ばれない。しかも非正常先の望むような低利・無担保・無保証といった条件での取引は現実問題としてむずかしいので、その喜びも半減してしまう。しかしながら、取引先が事業を営むそもそもの理由である儲けること、すなわち中小企業キャッシュフローを改善することに協力を惜しまない地域金融機関であれば、取引しない理由はない。資金需要はなくても、恒常的にコンタクトしておきたい地域金融機関になることは間違いない。「ウチの地域貢献は企業メセナでもなく、安定的な資金供給でもありません。取引先のお客様に儲かっていただくことです」と地域金融機関が地域に対して宣言できれば、営業はずいぶん楽になるのではないか。

消費者金融業界は価格競争とは無縁の世界

地域金融機関が「世話」をすることで中小企業キャッシュフローが増え、その一部を受け取ることで地域金融機関の利収が増えると示した。「世話の対価」は増えた中小企業キャッシュフローの一部ということだ。顧客の取り分と地域金融機関の取り分は地域金融機関の内部ルールで取り決めてもよいし、顧客ごとに交渉して決めてもよい。ただし、世話の対価を回収するとの観点から、顧客の取り分か多くならないようにする心がけが必要である。世話の対価をきちんと回収することまでが地域密着型金融の本質に含まれている。少なくない地域へのコミットメントコストが事業運営に伴う地域金融機関である。そこをカバーする収入が必要だということを忘れてはならない。「いい人の集団」という地域金融機関の特徴をふまえると、顧客の取り分か多くなりがちだろう。もう少しがめつさが欲しいものだ。

地域金融機関の取り分か少ないと、世話をして、結果を出すことの責任も小さくなり、世話の質が低下することにもなりかねない。世話をすることはボランティアではなく、ビジネスモデルの一部なのである。質が悪くても問題であり、質が悪いからといって安売りすればよいというものでもない。回収する対価は実額でとらえよう。率(金利)に惑わされるな では、どのような手段で回収するか。現場の業績評価に最も効果のある形で回収することが望ましい。手数料で役務収益として回収するよりは、地域金融機関が預金超過でその運用に四苦八苦している状態をかんがみ、資金利益など融資関連の収益として回収したほうがよいだろう。後者のほうが、どの地域金融機関でも業績評価上の配点は高いはずだ。

なかでも、大手行がなし崩し的に手を緩めつつある適正プライシングは、地域密着型金融機能強化の要請事項として、地域金融機関はなおも金融庁から求められている。世話の回収としての適正プライシング推進が避けられないだろう。適正プライシングは非正常先のようなところを対象とした推進にとどまっているのが実態で、価格競争に引き込まれていくなかで、正常先に対しては完全に後手に回ってしまった。後手に回るどころか、そもそも正常先に対しては適正プライシングを端からあきらめている地域金融機関も少なくない。また、非正常先ばかりに対して適正プライシングを推進することについて、弱い者いじめのような感覚がないわけでもなく、つらい気持ちで推進していた地域金融機関の行職員も多いのではないだろうか。いままでの常識では、正常先の既存貸出で一%を超えるような金利引上げ交渉はむずかしい。

しかし、仮にその取引先への貸出残高が五〇〇〇万円であれば、二%の金利引上げはこの取引先にとって、年間一〇〇万円の営業外費用のコスト増になる。中小企業キャッシュフローを二〇〇万円改善し、それを仮に取引先と折半するとすれば、二%の金利引上げさえも特にむずかしいことではなくなるのではないだろうか。価格競争のときには、競合相手との貸出金利差が数ベーシスポイント(ベーシスポイント:一%の一〇〇分の一)だっただけで涙をのむことがあるが、顧客のコスト負担を実額でとらえると些細なものであることがよくわかる。価格競争にのめり込んでいったため、こうした事実認識はどこかに忘れ去られがちであった。世話をして、世話の対価を回収することではじめて気づくことかもしれない。消費者金融業界は価格競争とは無縁の世界であるため、この事実をうまく活用して営業をしている。年利ではなく、月利での表示は伝統的であるが、「一ヵ月で一〇万円借りても利息はわずか一〇〇〇円(年率約一二%)」といったような見せ方を心がけている。

「わずかコーヒー三杯分」といった言葉が追加されることもある。一二%という年利は高いが、消費者にそれを受け入れてもらうために、心理戦に臨み、別の見せ方をしているのである。価格競争をしながら「○・○五%の金利差は社長のゴルフ三回分」というのも結構だが、地域金融機関が価格競争に退路を求めないのであれば、内部で同じように考えるほうがよい。「中小企業キャッシュフローの改善は一社当りわずか二〇〇万円で十分だ。それなら当店の行職員みんなができるだろう」といった具合だ。そして「当店所管の一〇〇の取引先でこれを実施すれば、新規貸出がまったく実行できなくても、一億円(一〇〇万円(二〇〇万円の半分)×一〇〇先)の資金利益改善も夢ではないのだ」と考えよう。世話をすることに少しはやる気が出てくるのではないだろうか。

「地域金融機関として当然の世話」

地域金融機関の新しい「世話」は、定量的な成果に基づいて目標達成の成否が判断できるという特徴も有している。地域金融機関の努力が一〇〇万円なのか、一〇〇〇万円なのか、一億円なのか、損益計算書や試算表に数値で成果が表れる。そもそも数値で成果がみえないようなものは「世話」として認めてもらえない。世話をされる取引先にも中小企業キャッシュフローの変化は十分に理解できるものだ。価格競争に退路を求めないための条件がこの「世話」には備わっていることになる。ここがレートショッピングを避けるための最大のポイントである。ビジネス・マッチングも定量的な結果を出せる世話に変わりはない。この成果に徹底的にこだわったビジネス・マッチングを行えばよいのだ。

これまではビジネス・マッチングに一生懸命取り組むだけで、数値で表される成果へのこだわりが足りなかったから、レートショッピングされていたのではないだろうか。さらに目標の設定次第では、「地域金融機関として当然の世話」との誹りも免れる。年商五億円の中小企業にとって、一〇〇万円の中小企業キャッシュフロー改善は当然の世話かもしれない。しかし、地域金融機関の努力からもたらされた、年商の二割にも相当する一億円の改善だとしたら、当然の世話といえるだろうか。世話をする前にどれくらいまでの中小企業キャッシュフロー改善が当然の世話で、どこから以上が当然の世話でないのかを取引先に確認できる。

また価格競争の常連の競合金融機関との価格差を聞き、どこまで中小企業キャッシュフロー改善を行えば、その価格差が埋められるかも明らかになる。仮に、恒常的に毎年一億円くらいの資金需要がある取引先に対して、競合より条件を〇・五%近く高く提示しているがゆえに、いつも辛酸をなめているのであれば、五〇万円(一億円×〇・五%)をはるかに上回る中小企業キャッシュフロー改善を毎年行えばよいだけだ。これらは「行って、聞いて、話す」の段階で取引先と調整にあたるべきだ。なかには、「どんな金額であっても当然でなくなることはない」「求める中小企業キャッシュフロー改善は青天井だ」というひどい取引先もあるだろう。しかし、そういうことをいわれること自体、取引先からまったく信頼されていない、取引先にその後も信頼しようという意思がまったくないことを意味している。

過去になんらかのトラブルでもあったからか、信頼のなさにも程がある。世話の対価が回収できるかも心許ない。こうした取引先にかいがいしく世話をしてもいいことはない。このように「世話」にも数値目標が設定されるため、現場でも管理しやすい。ただし、それでも管理上の問題は尽きない。中小企業の決算は年一回であり、そのタイミングでしか確認できないからだ。このような問題を解消するためにも、「世話」をした先からは月次で試算表くらい受け取っておきたい。試算表の徴求は与信管理上も好ましい。世話をする取引先の顧問税理士とのコンタクトなどは必須であろう。中小企業キャッシュフローの改善はアプローチを始めてから効果が出るまで時間がかかる。また、効果の持続性もまちまちである。システムリース料の削減であれば一度成功すると何年も中小企業キャッシュフロー改善に効果があるが、いつまで効果が続くかわからないものもある。

前者の場合、世話のプロセスを評価したい気持ちはわかるし、後者の場合、永遠に評価し続けたい気持ちもわかる。もっとも、価値ある「世話」だからこそ、正確に評価したいものである。現場で独自にルールを決めるということも一つの方法だが、すべては世話の対価がいつ回収できるか、またいつまで回収できるかであり、世話をやいた取引先の考え方に左右される。繰り返し世話をし、世話をしていることを印象づけなければ、地域金融機関の努力はすぐに忘れられてしまう可能性も排除できない。よって、プロセスよりは結果を基準に評価し、確実に決算に反映される分のみを評価するという保守的な評価方法が好ましいだろう。プロセスだけでは顧客は満足しないものだ。次から次へと異なる世話をやき続けて、結果を出していければよいのだ。それが地域金融機関として地元取引先から期待されていることだと思う。

中小企業キャッシュフローを改善することこそが「世話」になる

キャッシュフローを増やすことが貸出を増やし、金利を支払ってもらうことの大前提と考えればよい。そうすると、キャッシュフローが増えさえすれば、資金需要のない時代でも借入れをする動機が生まれるかもしれないしい適正プライシングのような金利の引上げを許容してくれるかもしれない。そしてキャッシュフローの改善が取引先の努力でもなく、また取引先の偶然の産物でもなく、取引のある地域金融機関の努力によるものであれば、取引先はどう思うだろうか。「世話になったので、一ついらないカネでも借りてやるか」とか、「世話になったので、ずっといわれてきた適正プライシングとやらに応じてやるか」という気になるのではないだろうか。ここで取引先にも評価され、かつ価格競争を免れうる新しい「世話」の定義が可能になる。

新しい「世話」とは取引先のキャッシュフローを増やすことと考えればよい。仕入・販売先情報をもとに売上高を増やしたり、売上原価を低減したりする効果のあるビジネス・マッチングはその手段の一つであるが、すべてではない。販管費となる人件費やいろいろな経費を削減するのもキャッシュフロー改善につながる。取引先に余剰人員が生じているときに、その人員に別の好条件な就職先をアレンジしたうえで、転職を促すというのも立派な世話といえる。どこの取引先もそれなりのシステム化を進めている今日であるが、リース使用のシステムをより安価で高品質の別のシステムのリースに切り替えることができれば、リース料は販管費の項目であり、取引先のキャッシュフローは増えることになるので、これも立派な世話である。

キャッシュフローを増やすということは、売上高を増やし、売上原価と販売管理費を減らすということにほかならない。一つだけ注意したいのが取引先中小企業の役員報酬である。勘定科目が販売管理費である役員報酬を減らせばキャッシュフローは増え、期中での役員報酬の減額は税務上も問題はない。しかし、マニュアル別冊に指摘されているとおり、代表者勘定は中小企業と一体である。役員報酬を減らして、余計な利息を払うというのは代表者の理解を得られないものであり、仮にできたとしても、「代表者を泣かせてカネを巻き上げた」とみられ、地域金融機関の横暴と受け取られる。実際に安易な事業再生などではこうした行動がみられ、再生先代表者の信頼を失っていくケースも多い。

「自分たちも給与カットされているんだから」と取引先に同じことをさせるのは、八つ当たりに等しい。またキャッシュフローが増えれば、それが地域金融機関の努力の結果であったとしても、当然のように代表者が役員報酬の増額を行いたくなるのが中小企業である。こうしたことをふまえると、キャッシュフローに役員報酬を加えた「中小企業キャッシュフロー」とでもいうべきものを、改善の対象とすべきであろう。そしてこのような新しい「世話」は現場の課題としてあげた顧客と地域金融機関によるゼロサムゲームの回避を可能にし、WIN・WIN関係の構築に寄与する。地域金融機関が「世話」をすることで中小企業キャッシュフローが増える。そしてその一部を受け取ることで、地域金融機関の利収が増える。

そもそも取引先はなんのために事業を営んでいるのかを考えてほしい。低利で資金調達をするより、大事な目的がある。中小企業キャッシュフローを増やすことである。これができれば、役員報酬をいくらでもとれるし、企業価値を高めることもできる。企業価値が高まれば、上場も視野に入り、創業者利益を得ることさえできる。上場企業は株価上昇から時価総額も増えていく。大小にかかわらず、すべての事業者共通のニーズである。したがって、このビジネスモデルは事業者のニーズに応え、かつ地域金融機関のニーズも満たす完璧なビジネスモデルといえるのではないだろうか。

銀行業の収益源を見直してみる

銀行業の収益源を見直すとき、答えは損益計算書にある。組織全体の態勢整備を前提に、現場では価格競争を免れるに十分な新しい「世話」の定義を行わなければならない。実は事業性資金融資ビジネスを正確にとらえ直すと、新しい「世話」の定義が可能になる。銀行業は預金者から預金を吸収し、その資金を貸出として運用するものである。銀行業の貸借対照表の負債項目には吸収した預金残高が載り、資産項目には運用している貸出金残高が載る。預金取扱金融機関にしかない貸借対照表である。その特権が価値を生んでいたため、規制に守られた厚い利鞘が損益計算書上で実現していたのが、過去の銀行業であった。

ところが厚い利鞘が薄まるにつれ、銀行業の損益計算書にも目を向けなければならなくなった。放っておいたら収支が確保できないかもしれない時代になったのだ。ALM(資産負債の総合管理)もかつては資産と負債の金利変更期間の違いをそれぞれの残高で把握し、管理するものであったが、いまではEaR(アーニング・アット・リスク)として期間損益の将来動向を管理するようになっている。損益の安定を確保するには、銀行業は貸借対照表をみておくだけでは足りず、損益計算書そのものもみなければならない。一般の事業会社では普通に行われていることだ。規制業種であった銀行業が一般の事業会社に近づいてきたことを意味する。

銀行業と取引先の損益計算書を並べ、両者の関係を検証しよう。取引先は調達した資金の利息を営業外費用の支払利息として銀行に支払い、銀行は資金運用収益として、運用した貸出金の利息を受け取っている。定期預金を預けている取引先は預金利息を営業外収益の受取利息として受け取り、銀行は資金調達費用として預金利息を支払う。手数料は取引先の販売管理費のなかの支払手数料で支払い、銀行は役務取引等収益として手数料を受け取る。この資金の流れのなかで、銀行が収益を上げるためには何か必要かを考えてほしい。

取引先は営業外収支のなかで支払利息を支払うため、営業利益(営業外収支の上)を稼いでいなければ、利息も払いづらい。預金利息は銀行が収益を上げるためには少ないに越したことはないが、こちらも取引先が営業利益を稼いでいなければ、少ない預金利息には納得しづらい。取引先が手数料を支払うためには、手数料の勘定科目が販売管理費であるので、売上総利益(販売管理費の上)を稼いでいなければならない。つまり、銀行が収益を上げるためには取引先が少なくとも売上総利益や営業利益を上げていなければならないのである。取引先が儲かることで、その分け前を受け取るのが銀行業なのだ。

ページ移動