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地域金融機関と与信取引先の関係

それまでの営業スタイルである「お願い営業」は、とにもかくにも取引先に顔をよく出すことが基本とされた。人柄のよい、客受けする渉外であることが大前提であった。他の金融機関より顧客にかわいがってもらうことで、商品やサービスは売れた。少し売行きが悪くなったり、キャンペーンで無理をしてでも売ったりしなければならないときには、末端の渉外に始まり、支店長までが総出でお願いをし、売れない商品を販売してきた。キャンペーンであまりに高い目標が設定されたり、提案するに及ばないような商品を売ったりするような場合は、いまだにこうした「お願い営業」を行っている地域金融機関の現場も少なくはない。ここで、このお願いは何を根拠にしたものかよく考える必要がある。

渉外担当が顧客のお気に入りだからか。その顧客がその地域金融機関のファンだからか。渉外担当が血縁者のこともあるだろう。過去の苦しい時期に支援をしてもらったことや、その渉外担当のファンになっている顧客もいるだろう。ただし、そうした顧客の数は決して多くはなく、お願いが受け入れられてきた根拠としては普遍性を欠く。お願いする対象先には一定の特徴がある。預金のみの取引先に率先してお願いに行く地域金融機関は皆無ではなかろうか。貸出以外の商品をキャンペーンで売り込む場合、渉外担当の会議などでつくる対象先リストに載るのは、決まって与信取引先である。時には正常先より多くの非正常先がリストアップされることもある。

お願いは与信取引先にするものなのだ。与信取引先が「貸してもらった」と感じている手応えや地域金融機関の「貸してあげた」という感覚は、資金需要がいかに低迷しようとも、地域金融機関の行職員の皮膚感覚として残っている。そこをお願いにうまく使っているのだ。お願いが受け入れられてきた根拠はここにある。しかしながら、与信取引先の「貸してもらった」という感覚が薄れてきていることは間違いない。どこの地域金融機関でも貸してくれるような正常先では、いまや「貸してもらった」感覚は皆無という状態になっているかもしれない。お願いの基盤が揺らぎはじめ、「失われた一〇年」のうちにお願いの通用しない先が着実に増えているのである。

さらに「貸してあげたのにお願いがしづらい(またはできない)」という状況が増えていることも事実である。個人ローンはその代表である。事業性資金融資は基本的にオーダーメイドである。保証協会の保証付きにするか、有担保にするか、無担保にするか、これらは案件により異なる。さらに貸出金利は他の取引金融機関の動向をみながら柔軟に対応している。基本は顧客との交渉であり、取引先との間でお願いが幅をきかせる場面はいくらでもある。ところが、事業性資金の需要が落ち込む過程で、地域金融機関は個人ローンに注力した。

個人ローンは定型の条件の定価販売が主流であり、顧客との条件交渉の余地はない。取引先の代表者向けならまだしも、預金のみの取引であるリテール顧客に対して住宅ローンを実行する際、お願いによって定価の貸出金利より高い金利で契約したという話は聞いたことがない。加えて預金のみの取引先などに、お願いで個人ローンの契約を獲得することなどできないことは皆知っているはずだ。こうした顧客は個人ローンを申し込む場合、必ず大手行から地域金融機関までの貸出条件を比較し、レートショッピングをする。