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地域金融機関の深刻なビジネス・マッチングの遅れ

新しい「世話」とは何か。定義づくりの悩みは尽きない。いいかげんな定義づけですませてしまうと、価格競争を免れることはできない。集中改善期間にリレバン機能強化として、地域金融機関はビジネス・マッチングなどを積極的に行ってきた。新しい「世話」としてビジネス・マッチングに白羽の矢を立てた結果だ。ところが、そうしたサービスを提供してきた取引先に資金需要が発生したとき、「お宅には世話になったからね」といわれて、言い値の貸出金利を受け入れてもらったことがあるだろうか。

こうしたサービスを提供しても結局は近隣の地域金融機関とレートショッピング(入札)され、貸出をもっていかれたという悲しい話をわたしは幾度となく聞いてきた。ビジネス・マッチングなどは単調な事務作業とは異なり、特にコストの高い優秀な行職員によって手がけられることも多く、この遺失利益はかなり大きい。ビジネス・マッチングにしても、本来ならとれるようになった手数料やそれにふさわしい対価をとるべきである。

しかし、多くの地域金融機関ではビジネス・マッチングのマニュアル整備やコンプライアンス整備が遅れ、ビジネス・マッチングの推進態勢整備が遅れた。その結果、最もビジネス・マッチングのニーズが高いといわれる特許が絡むような製品の案件を「腰が引けて成約に結びつけられなかった」という地域金融機関の現場の嘆きも聞こえてきた。本部主導のリレバン機能強化を象徴するエピソードとして、情報を本部が吸い上げるだけで、現場にはなんのフィードバックもないまま成約に至ったというビジネス・マッチングもあったとのことだ。

事後的に顧客から感謝されたとのことだが、この現場はせっかくのビジネスチャンスを逃してしまったのではないだろうか。現場に根を下ろしたビジネス・マッチングを行うために、マニュアルやコンプライアンスといった基本的なインフラを欠くことが大問題であるのは当然として、現場のビジネスチャンスを奪っているようでは元も子もない。当然のこととして本部は態勢整備を急ぐべきだ。ただし、ビジネス・マッチングの推進態勢整備を行ったとしても、それだけではレートショッピンクを避けられるわけではないことには変わりなく、新しい世話とするにも不安は残る。

ビジネス・マッチングそのものでさえ「世話」にあらず

年に一回決算書を受取りに行くときや、月次の試算表や他行借入明細を受け取るときも話すチャンスである。融資が苦手な渉外担当は、顧客と融資担当の間でこれらの書類を伝書鳩のように運ぶ役割にとどまっていることも多いはずだ。効率の悪い宅配業者のような立場に甘んじていてはならない。がんばって「聞いて、話す」能力を身につけてほしい。むしろ財務分析を知らない分、より取引先に近い自然な財務諸表の見方ができるようになるはずだ。下手に財務分析を知っていると、電卓を取り出し、与信関連の係数ばかりに目が行きがちだ。

貸出ではなく、社長の営業の手伝いとなるビジネスーマッチングなどに取り組むために何ができるかを、受け取った財務諸表をみながら話せるようになってもらいたい。次に、どのように「世話をする」か。ここでも、いいかげんな「世話」ではビジネスモデルとして認められない。「世話」を「地域に対する安定的な資金供給」と言い換えることはできるか。地域金融機関の経営者が地域金融機関の役割や地域貢献について説明するとき、キーワードとして使われる言葉が「地域に対する安定的な資金供給」である。

しかし、「世話」に該当するかといえば少し時代遅れである。資金に希少価値があり、需要も大きかった時代であれば、顧客に対する「世話」として機能したかもしれない。残念ながら現在ではビジネスモデルを構成するには力不足である。資金需要がない低成長経済を前提に、新しい「世話」の定義を考えていかなければならない。しかしながら、「資金はいりませんか」といい続けてきた結果として資金供給以外の役割を取引先からあまり期待されなくなったことは、新しい「世話」を見出す際に大きな支障になる。つまり、新しい「世話」を提供しようとしても、取引先がそれにあまり期待しない可能性があるということだ。

繰返しになるが、成果を上げるしか解決の術はない。また地域金融機関特有の悩みとして、「『世話』は対価を生み出すようなものではない」と取引先からいわれることも少なくない。あたかも無料のサービスであるかのように、「地域金融機関なのだから、当然の世話だ」といわれる。妙な説得力はあるが、真に受けてはいけない。私企業としてこうしたことをいわれることはつらいが、取引先から「対価を払っていいほどの世話ができるとは思えない」と考えられていることも一因ではなかろうか。でたらめな物言いをされても、すべて顧客に非があるわけでもないと考えたほうがよい。

新アクションプログラムから導かれる具体的業務像

「行って、聞いて、話す」が具体的に意味するものは何か。「それくらいはやっているよ」とのお叱りをみなさまから受けそうだが、そんな単純なものではない。「行く」こと一つをとっても目的はピンからキリまである。定積集金をしているような地域金融機関では、足繁く通う、短時間で事務処理をするということが美徳とされることも多い。毎月きちんと積立てができることが信用の証しなどということも伝統的に考えられており、与信管理に役立つとされているはずだ。しかし、そうした渉外活動ではこのビジネスモデルに合致しない。事務処理の片手間で、聞いて、話した情報ぐらいでは満足な世話ができるはずもない。

新規開拓でも同じようなことがいえる。新規開拓の任にある渉外担当であれば、「とにかく行くのみ」と、特定の地域をしらみつぶしに回るローラーを経験したことがあるだろう。わたしの経験ではローラーで実績が上がったことはない。取引先を新規に開拓する場合は、ターゲットを定めて、ありとあらゆる事前の情報収集(業種の話題から調査会社より提供される所有資産明細など)を行ったうえで、一日に二~三件程度回るのが精一杯ではないか。ローラーでは話すための情報が少なく、結果として関心や熱意もなかなか伝わらない。ローラーで反応がよかった新規開拓対象先は、信用力に問題があるケースが少なくない。

数は少なくても事前の情報収集に努力すればするだけ、新規開拓先にわかりきったことを質問することもない。いくらでも話のキャッチボールができ、関心や熱意も伝わりやすい。すぐに実権者に会えるのではないか。「行って、聞いて、話す」の「行く」は事務処理の片手間で行くことや事前の情報分析なしに行くことではない。ましてや「資金はいりませんか」と借入れニーズを探りに行くことでもない。ATMのようにみられる危険性があり、資金供給以外の機能を顧客に認識してもらう大きな支障になることは説明したとおりだ。いままでさんざん「資金はいりませんか」といってきているのだ。

「取引先が資金を本当に必要とするときは、声をかけてくれるだろう」という程度に考えておけば十分である。そうした目的以外で「行く」場合に、何を「聞いて、話す」か。さきで指摘した、新しい融資業務に対応できるような内容を聞いて、話さなければならない。つまり「この取引先に対し、自行庫が関与することで、財務諸表のどこを変えていくのか、どういう手段で変えていくのか」について、ヒントを聞いて、地域金融機関自身でみつけられなければならないのだ。「話す」で顧客に還元される内容は、そのヒントから導き出された関与の仕方であることが望ましいが、その場で返答できるには若干の経験とスキルが必要になるだろう。

その場で対応できなくてもかまわない。持ち帰って後日に対応すればよい。それができなければ、実体の伴わない地域密着による因果を払拭できるような話をするように心がけることだ。「自分のところが関与して、こんな実績が上がった」とか「自分のところは中小企業向け融資をこんなふうに変えたいと思っている」といったことをアピールする絶好の機会である。少しずつでも顧客との溝を埋めていこう。地域密着は、地域金融機関が当然のごとく持ち得た強みではなく、意識してつくり上げていく強みであるのだから。

地域密着型金融機能強化のポイント

いよいよ現場にふさわしい地域密着型金融機能強化のビジネスモデルを紹介しよう。二〇〇四年度までのリレバン機能強化にしても、二〇〇五年度からの地域密着型金融機能強化にしても、地域金融機関という組織全体を対象にした取組課題である。現場にしてみれば、つかみどころがないところもある。「顧客との濃密な取引関係がカギを握る」といっても、現場だけではできないものも混在しており、本質が理解されなかったのも無理はない。そこで、新アクションプログラムで地域密着型金融の本質が定義されたことを受けて、それを現場流に解釈することから始めよう。そうすれば間違いをおかさずにすむ。地域密着型金融の定義は三つに分解できる。

すなわち「対面交渉・情報収集を行う」「問題があれば経営改善策・貸出機能の強化を実施する」「儲ける」だ。これらを一連の現場の行動として関連づけると、「行って、聞いて、話す」「世話をする」「世話の対価を回収する」と整理できる。対面交渉とは客先にまず行くことである。行くだけでは惰報はとれないので、聞いて、話さなければならない。聞いて、話して、集めた情報をもとに顧客の世話をする。そしてこの世話は地域金融機関の行職員を使った結果であるから、対価を回収しなければならない。

これらは、それぞれ新アクションプログラムにおける三つの柱「事業再生・中小企業金融の円滑化」「経営力の強化」「地域の利用者の利便性向上」に対応づけられる。「行って、聞いて、話す」ことではじめて可能となる「世話をする」は、「事業再生・中小企業金融の円滑化」と「地域の利用者の利便性向上」に対応する。事業再生や中小企業金融の円滑化を対象である地元取引先に対してきちんと行えば、十分な世話として認識できるだろう。また十分な世話ができるということは、利用者である地元中小企業の利便性向上に貢献することと矛盾しない。

利用者といえば預金のみの取引のリテール顧客のイメージが強いが、地元中小企業の従業員も相当数いるはずだ。彼らは勤め先から間接的な恩恵を少なからず受けるだろう。利便性向上は窓口対応のCS(顧客満足)などだけで評価されるわけではない。「世話の対価を回収する」とは経営力の強化であることはいうまでもない。地域貢献の結果である不良債権の山と地域金融機関の健全性を両立させるのは保守的な引当てであり、その原資は地域金融機関の収益力である。こうしたことをふまえれば、「行って、聞いて、話す」「世話をする」「世話の対価を回収する」は金融庁から示された地域密着型金融に矛盾しない、現場でそれを実践できるビジネスモデルになりうる。

地域金融機関の新たな融資業務とは

現場においては、融資業務のとらえ方そのものをドラスティックに変えなければならないだろう。所与のものとして中小企業から渡される財務諸表を分析して、貸す・貸さないという判断を行うだけの従来の融資業務では不十分になるのだ。財務諸表を受け取って、信用力を分析することは、地域金融機関における従来の融資業務にかわる新たな融資業務のスタートにすぎない。その財務諸表のどこを地域金融機関の関与で変えていくか、どういう手段で変えていくかまでを考えるのだ。これが新たな融資業務になる。この新たな融資業務は大手行の融資業務とは異なり、差別化が可能となる。手間がかかり、大変な業務である。

融資担当は立派な経営コンサルタントでなければならない。与信判断自体が昨今のITの発達によりスコアリングなどにとってかわられてきており、もはや人手をかけて遂行するまでもない低付加価値業務に成り下がっている。従来の融資業務は見直されなければならない。事実、大手行ではスコアリングの浸透で融資業務部門に余剰人員が発生しているようだ。そして、こうした新たな融資業務の取組みに対する評価の仕方も、地域金融機関側と顧客側とが共通に理解できる定量的な結果を求めることに矛盾しない。取引先の財務諸表上に具体的な結果を残せてはじめて実績を残したと認められるのである。

それは顧客の側にも理解できる。貸倒れを出さないとか貸出を増やしたことをもって評価する従来の融資業務の評価と一線を画す。ただ頭が痛いのは、実体の伴わない地域密着による因果と、財務上の結果に関係なく、盛り上がりを期待しづらい資金需要である。まず実体の伴わない地域密着による因果として、顧客が地域金融機関の関与を拒絶する可能性が高い。これまでの融資業務を変えていくという意思表明や、関与を拒絶しなかった他の取引先中小企業で上げた実績の情報開示が避けられない。さらには家族経営的零細企業に対しては、借手の義務の周知といったところにも気を配らなければならない。

仮に地域金融機関の関与を顧客が受け入れ、顧客の財務諸表上に成果が表れたとしても、それが単純に貸出につながるとは限らない。融資業務のあり方が変わったとしても業績評価が変わらなければ、融資のボリュームで結果を出さない限り、現場でも何もいいことはない。むしろ成果が返済原資を提供することになり、ボリュームを減らすことすらある。成果に対する報酬を手数料で払うといわれても、地域金融機関が本当に欲しいものはやはり貸出の実行である。これは事業再生の対象になる要再生先でも同じである。再生が終了して財務諸表上結果が出た後は、既存借入れの返済が優先される。

おそらく過去の過剰債務の反省から、再生期間が長くつらいものであればあるだけ、元再生先は資金調達には慎重な姿勢をとるだろう。また過剰債務をもってしまった頃の環境に比べて経済が低成長になっていることも、資金に食指を伸ばしづらくする理由になるだろう。積極的に地元中小企業に関与し、再生実績を上げたとしても、経済環境には逆らえないところもある。なんらかの対策を講じる必要がある。融資業務が変わっただけでは足りない。そのうえで、貸出を伸ばしたい、伸ばさなければならないのが地域金融機関である。だからこそ対策が必要になる。

事業再生・中小企業金融円滑化の正しい理解

現場に求められるもう一つの意識改革は、新アクションプログラムの三つの柱の一つをなす事業再生・中小企業金融円滑化を正しく理解することである。新アクションプログラムでも地域密着型金融の本質として「中小企業等への金融仲介機能を強化」という言葉が示されている。この言葉を「『中小企業にカネを貸せ』といわれているのだ」と解釈するのは誤りである。「とにかく中小企業にカネを貸せ」といわれているわけではない。地域金融機関は預金取扱金融機関である。預金取扱金融機関では預金による資金調達が認められており、証券会社や信託業者とは異なり、預金を分別管理せずに、自身の貸借対照表上に他の負債と混在させたままで、資金運用に充てたりすることが認められている。

しかし、預金者保護の観点から、こうした権限は免許を与えられたものにしか認められておらず、だれでもできるわけではない。したがって貸出のような資金運用も、預金者の十分な保護を前提に行われなければならない。そこで、貸出先から担保を徴求したり、それで不足する場合は債務者区分や債権分類を行い、適切な引当金を積む必要がある。こうした預金者保護のための手続をきちんと踏まずに行われる貸出は、それがいかなる理由でも認められるものではない。対象先が中小企業であっても例外ではない。ゆえに、「引当金は積めないけれど、地元の中小企業にまんべんなくカネを貸せ」など預金者保護の理念と矛盾した指示を金融庁がするわけがない。

実際に「中小企業向け融資を増やしなさい」といわれているのは、公的資金注入により経営改善計画が求められた銀行だけである。これらの銀行には中小企業向け貸出残高目標が与えられている。しかしそれは、公的資金注入当時の貸し渋り・貸し剥がし批判に対応した一時的なものであると考えたほうがよい。それ以外の金融庁関係の資料には「中小企業にカネを貸せ」などという趣旨の言葉はまったく示されていないことに注意しなければならない。しかし、中小企業の信用力のとらえ方次第では「カネを貸せ」ではなく、「カネを貸せるようにできるのではないか」といわれていると解釈することも可能である。中小企業の信用力を所与のものととらえるか否かで、見方が異なる。

中小企業の財務(正確には代表者勘定も含めた修正財務)が、地域経済も地域金融機関も関係なく、その中小企業の責任のもとだけにおいて行われた事業の結果であれば、そこから算出される信用力は所与のものと考えることができる。ところが、地域経済のビッグプレーヤーである地域金融機関は当然のごとく地域経済に影響を及ぼし、中小企業が主たる顧客である地域金融機関は地元の中小企業に少なからず影響を及ぼしている。そして地域密着型金融の機能強化は、地元の中小企業への関与をさらに深めるということにほかならない。事業再生への取組み、その結果としてのランクアップは、与信費用の削減として、地域金融機関の経営力強化につながる。それは半面、それまでは預金者保護の観点から貸せなかった中小企業が再度貸せる中小企業になるという効果をもたらす。

ビジネス・マッチングや経営コンサルティングも要再生先に対して取り組めば、キャッシュフロー改善などの効果があり、同様の意義をもつだろう。さらに要再生先でなくても、継続的に経営コンサルティングやビジネス・マッチングを行っていれば、地域経済全体が盛り上がるという効果がある。地域経済に対してもこれらの取組みでさらに影響を及ぼすべきだとされているのではないだろうか。大手行の取引先中小企業の信用力は大手行にとって所与のものだが、地域金融機関の取引先中小企業の信用力は地域金融機関がコントロール可能なものと想定されているのだ。地域密着型金融の機能強化により積極的に関与を高めていかなければならない。そうすれば貸せない先などなくなるわけだから、預金者保護も可能である。地域金融機関は「中小企業にカネを貸せるようにできるのではないか」といわれているように推測できる。

内部論理による非価格メリットの説明は通用しない

現場において重要なのは、価格競争に応じないとルールで決めた場面では徹底して価格競争に退路を求めないこと、そのうえで低価格に興味を失うほどの価格以外のメリットを顧客に還元することを目標にするということである。たとえそれがどんなにむずかしいものであっても。組織が業績評価してくれないのであれば、支店長が店内の評価に反映させるだけでかなり変わる。ただし、価格以外のメリットを顧客に還元する目標が達成できたか否かは、地域金融機関側と顧客側とが共通に理解できる定量的な結果に基づいて判断されなければならない。地域金融機関側の論理でしか理解できない結果や定性的な結果を目標にしているようでは意味がない。

それでは顧客の低価格に対する興味を失わせることができない。たとえば、日給二万円の行職員一人が通常で一〇日間を要する経営コンサルティングを、よりよいソリューションを提供することでなんとかレートショッピング(入札)を止めてもらうために、通常の倍の二〇日間かけて入念に実施したとしよう。そこで「一生懸命当社のメリットになることを教えてくれた」と顧客にいわれたとき、「一生懸命度合いを金額換算すればいくらになるか」と顧客に聞いたらどのような答えが返ってくるだろうか。答えはまちまちのはずだ。一〇〇万円という現金であったり、菓子折一箱であったり、お礼やねぎらいの言葉だけ(○円)であったりするだろう。

一生懸命は定量化できないのだ。地域金融機関側の論理では、通常二〇万円(二万円×一〇日)ですむコストに、入念に実施した分さらに二〇万円が追加されていることになるが、そんなことは顧客には理解されないうえ、説明もしようがない。説明しても日給が高すぎるといわれるだけだ。経営コンサルティングのお礼を、言葉だけでは申し訳ないとして菓子折一箱ですませた顧客は、次の借入案件では、悪びれることなくまたレートショッピングをするだろう。地域金融機関側か自身の論理で理解でき、顧客にも理解が得られるであろうと考えられる定量的結果であっても、地域金融機関の外では必ずしも理解されない。成果を情報として開示する際には注意が必要だ。

こうした理解の乖離は「○○した件数」などのようなプロセス指標などに対するものに多い。プロセス指標を結果指標のようにとらえがちな地域金融機関の習慣が原因だ。地域金融機関内部のようにプロセスも勘案してくれるほど世間は甘くない。集中改善期間中に金融庁に報告された各地域金融機関におけるリレバン機能強化の進捗状況では、ランクアップ先数が示されている。各地域金融機関とも総じて、全対象先のうち二割程度のランクアップに成功している。しかし、同期間中、地方銀行では全六四行のうち二一行の与信費用が減少するどころか、増加している。ランクアップ先数のような件数では、地域金融機関の財務上の本当の効果は捕捉できない。小さい先ばかりランクアップしても、大きな不良債権が増えれば焼け石に水だからだ。

事実、地域金融機関以外の人も読める雑誌などで、地域金融機関の健全性ランキングを掲載することがあるが、それを示す指標として使われるのは、ランクアップ先数ではなく不良債権比率や与信費用である。たしかに不良債権比率を用いるのは地域金融の特性から適切とは思わないが、与信費用を用いるのは誤りではない。金融庁も含めた地域金融機関の業界関係者のなかではランクアップ先数を評価する声もあがるかもしれないが、うるさい株主や顧客のような業界関係者以外にはランクアップの努力は理解してもらえないだろう。現場の目の前にいる顧客も理解しないはずだ。共通に理解できる定量的なランクアップ活動の成果は、その先数の増加ではなく、与信費用の削減なのだ。

価格競争の渦に巻き込まれる地域金融機関

地域金融機関が苦手とするものが価格競争である。いくらその地域に強いといわれていても、価格競争の渦に巻き込まれれば勝ち目はない。もともとは無敵の横綱も、総合格闘技では小さな相手にすら勝ち目がないように。問題の根は、価格競争を行うか行わないかの判断を、バランス感覚の優れた経営陣や行職員が行うことにある。恣意性を排除し、価格競争を行うところと行わないところをルールとして区分したうえで、それ相応の対応をしていくことが問題解決の第一歩ではないだろうか。そうすることで「ある程度の価格競争は仕方がない」という言葉の「ある程度」にも具体性をもたせることができる。

全取引先の貸出残高のうち、価格競争を行う取引先の貸出残高の比率などがその程度を表すと考えればよい。「ある程度」が五〇%なのか七〇%なのかを決めておけば、「いつの間にか価格競争に巻き込まれていた」ということもない。そのうえで価格競争を行う場面、行わない場面それぞれにふさわしい事業運営を行っていくのが筋だ。価格競争を行う場面では、そこに係るコストを抑制する、または変動費化する。都市型地域金融機関がとるべき手段として紹介したような方法である。そして、そのコスト削減メリットを価格により還元することで価格競争に積極的に挑む。価格競争を行わない場面では、価格ではない別のメリットを顧客に還元しなければ商売は成り立たない。

そしてこのメリットは低価格に興味を失うほどの顧客メリットである必要がある。地域金融機関は、どの程度の顧客メリットを提供するかをいままであまり吟味してこなかったため、価格競争に退路を求めてしまっていたのだろう。集中改善期間中にビジネス・マッチングや経営コンサルティングへの取組みは行われたが、取引先ごとに異なるはずの成約の金額、それもその取引先から感謝されて、地域金融機関に対し足も向けて寝られなくなるほどの成約額を意識してビジネス・マッチングが取り組まれただろうか。「取り組むことに意義がある」といった程度のビジネス・マッチングではなかっただろうか。経営コンサルティングにしても、顧客の損益計算書上で目にみえる結果や事業運営がドラスティックに変わるような結果を出すことを目標として取り組まれたことはあっただろうか。

ビジネス・マッチングや経営コンサルティングが、単独でも対価を徴収できる歴とした銀行業務として認められてまだ日が浅い。高いハードルを設定してその結果を追力せることについても、「人材開発も必要であるから、まだこれから先の話」と悠長に考えていたところがあったかもしれない。ただし、こうした人材開発等に要する時間軸の長さと価格競争へ引き込まれる時間軸の長さは同じではない。価格競争を行わないですむだけの人材が開発できたときには、すでに価格競争の餌食になっていて、人件費は削りに削られる。その結果、現場は「賃金に見合ったことしかやりたくない」といったモラルダウンも甚だしく、ビジネス・マッチングや経営コンサルティングどころではない可能性もあるのではないか。さらに人材開発された行職員が、その能力に見合った別の職場を求め始めるという悲惨な終局を迎える可能性もある。